公演情報

第十五回日本伝統文化振興財団賞贈呈式/日本伝統文化振興財団賞歴代受賞者による 古典芸能の夕べ 東日本大震災チャリティ公演

2011年5月31日(火)開催

(東京・紀尾井ホール)

平成9年の設立以来、今年で第15回を迎えた日本伝統文化振興財団賞。賞の贈呈式とあわせ、東日本大震災チャリティ公演「古典芸能の夕べ」として本年度受賞者、大蔵流狂言方の山本泰太郎氏をはじめ、歴代すべての受賞者が出演し、人間国宝・竹本駒之助師の賛助出演、司会に元NHKアナウンサーの葛西聖司氏を迎えて開催されました。

未来への希望、日本の伝統芸能

文:じゃぽ音っと編集部

伝統芸能の明日を担う演奏家を毎年一名顕彰している日本伝統文化振興財団賞は今年で15年目。これまでに受賞した顔ぶれは長唄、生田流箏曲、清元、義太夫、山田流箏曲、尺八、地歌、能楽、邦楽囃子、大和楽と幅広いジャンルにわたっています。チャリティ公演の前に今年の受賞者、大蔵流狂言方の山本泰太郎氏への贈呈式が行なわれました。

藤本理事長挨拶◆

藤本理事長挨拶◆

財団賞選考経緯紹介(田中英機氏)◆

田中英機氏◆

財団賞贈呈式◆

財団賞贈呈式◆

山本泰太郎氏◆

山本泰太郎氏◆

 

「無形文化のすぐれた後継者を顕彰する財団賞の贈呈式では、例年、式の後にさまざまな邦楽・伝統芸能に関わっていらっしゃる方をお招きして、交流会を催してまいりました。邦楽の世界はジャンルを越えた横のつながりが少ないので、当財団では皆様の交流の一助をこうしたかたちで担ってきたわけですが、本年は、それに代えて、東日本大震災への支援を目的としたチャリティ公演を開催させていただくことになりました。歴代の受賞者全員がご出演くださり、大変ありがたいことです」と語る藤本草理事長の挨拶でスタートし、山本泰太郎氏が壇上に登場。来賓の関裕行氏(文化庁文化財部部長)、斉藤鉄夫氏(衆議院議員)と松あきら氏(参議院議員)からの心温まる祝辞が寄せられました。

選考委員の紹介ののち、委員を代表して田中英機氏が「ノミネートされたあらゆる日本の伝統芸からの顔ぶれに選考は難儀いたしました」「大勢の方々に観たり聴いたり、感じとっていただくDVDがプレゼントされます」と選考経緯を紹介しつつお話をされ、賞を受けた山本泰太郎氏は「泉下の父(故山本則直氏)もきっと喜んでくれていると存じます。これもひとえにご推薦くださいました先生方のおかげと衷心より感謝申し上げます。不惑の年齢になりましたが、この賞を励みになおいっそうの精進を重ねてまいりたいと存じます」と引き締った面持ちで語りました。

葛西聖司氏◆

葛西聖司氏◆

公演は第一部ののち、休憩をはさみ第二部という構成。司会をつとめた伝統芸能への造詣が深い元NHKアナウンサー葛西聖司氏は、愛情にあふれた語り口で会場を湧かせます。幕開きは能「翁」の後半、狂言方が演じる「三番三(さんばそう)」で本年度第15回受賞の山本泰太郎氏(三番三)、亀井広忠氏(大鼓:第8回受賞)ほか全九名の舞台。大地を踏みしめ、平穏と豊穣への祈念がこもった舞台に会場は万雷の拍手。次に昨年第14回の受賞者、大和楽三味線方の大和櫻笙氏と藤舎呂英氏(第10回受賞)の鳴物ほかによる大和楽「お祭り」。唄、三味線、笛と鳴物の総勢十四名で祭囃子をモチーフに明るく華やいだ雰囲気をダイナミックに表現します。


つづいては、山田流箏曲家の中能島欣一が作曲した名曲であり難曲として知られる「三弦・箏・尺八三重奏 さらし幻想曲」。山田流箏曲の山登松和氏(三弦:第5回受賞)、善養寺惠介氏(尺八:第6回受賞者)の名手二人に、作曲者とは流派の異なる生田流箏曲の遠藤千晶氏(第13回受賞者)の箏が挑み、流派を越え心技一体となった演奏に酔いしれました。前半第一部の締めくくりとなった「百萬」は観阿弥原作「嵯峨物狂」を世阿弥が改作したものですが、片山九郎右衛門氏(第11回受賞者。受賞時は前名の片山清司)の謡と亀井広忠氏(第8回受賞者)の大鼓による一調という形式でおくります。わが子を探し求める心情をせつせつと吐露する謡とそれに寄り添い鳴り響く大鼓が、深い祈りとして心に刻まれました。



人間国宝の竹本駒之助師を浄瑠璃に、第4回受賞の鶴澤津賀寿氏の三味線でおくるのは、義太夫「菅原伝授手習鑑」寺子屋の段から「いろは送り」。いろは歌になぞらえて親子の別れを語る名場面を短いながらも精魂をこめたものに。つづく清元「お祭り」は三味線の清元美治郎氏(第3回受賞)と浄瑠璃の清元美寿太夫氏ほか四名。つややかな喉と三味線が昔日の華やかな江戸の祭りの雰囲気を存分に感じさせてくれます。



 

長唄「其面影二人椀久」〜唄:杵屋直吉(第1回受賞/写真上段中央左)、松永忠次郎(第12回受賞/写真上段左) 三味線:今藤長龍郎(第9回受賞/写真上段中央右) 小鼓:藤舎呂英(第10回受賞/写真下段左)

長唄「其面影二人椀久」〜唄:杵屋直吉(第1回受賞/写真上段中央左)、松永忠次郎(第12回受賞/写真上段左) 三味線:今藤長龍郎(第9回受賞/写真上段中央右) 小鼓:藤舎呂英(第10回受賞/写真下段左)

地歌「残月」は作曲者の峰崎勾当が早逝した愛弟子を追善したと伝わるもの。歌・箏の米川敏子氏(第2回受賞。受賞時は前名の米川裕枝)と歌・三弦の藤井昭子氏(第7回受賞)がつむぎ出す濃密な場に一瞬たりとも目と耳が離せない一幕に。後半の最後は長唄舞踊曲「其面影二人椀久」。ドラマティックな長唄屈指の大曲で、杵屋直吉氏(唄:第1回受賞)、松永忠次郎氏(唄:第12回受賞)、今藤長龍郎氏(三味線:第9回受賞)、藤舎呂英氏(小鼓:第10回受賞)ほか全十四名の想念がひとつに結集し、緩急あざやかな演奏が力強くこだまし、コンサートの締めくくりを飾るのにふさわしいものとなりました。

将来有望な人材をさまざまな分野から顕彰してきた歴史がこのようなチャリティ・コンサートとしてひとつの実を結んだ日本伝統文化振興財団賞。この日ご来場された大勢のお客様には、日本の伝統芸能が未来への希望となることが強く実感されたのではないでしょうか。

なお、終演後には出演者の皆様が揃ってロビーに出て義援金の呼びかけを行い、多くの方からご協力をいただきました。今回のチャリティ公演で当財団から日本赤十字社へ寄付させていただいた義援金については、別途報告記事にてご案内しております。

撮影:亀有スタジオ(◆印)

財団ニュース(2011年6月21日)
チャリティ公演「古典芸能の夕べ」についてのご報告

じゃぽ音っとブログ(2011年6月1日)
御礼「古典芸能の夕べ」

「じゃぽ音っとブログ」より“ #charity531 出演者紹介 ”

プログラム

《第一部》

一、「三番三」
  三番三:山本泰太郎(本年度 第15回受賞
  面箱:山本凛太郎
  後見:山本東次郎、山本則俊
  笛:松田弘之
  小鼓:鵜澤洋太郎、田邊恭資、飯冨孔明
  大鼓:亀井広忠(第8回受賞
二、大和楽「お祭り」
  唄:大和左京、大和礼子、大和久路、大和久悠、大和久萌
  三味線:大和櫻笙(第14回受賞)、大和久織、大和久涛、大和久翔、(低音)大和久喜子
  笛:福原寛
  鳴物:藤舎呂英(第10回受賞)、藤舎千穂、堅田喜三郎
三、三弦・箏・尺八三重奏「さらし幻想曲」
  三弦:山登松和(第5回受賞
  箏:遠藤千晶(第13回受賞
  尺八:善養寺惠介(第6回受賞
四、一調「百萬」
  謡:片山九郎右衛門(第11回受賞
  大鼓:亀井広忠(第8回受賞

《第二部》

五、義太夫「菅原伝授手習鑑」寺子屋の段から「いろは送り」
  浄瑠璃:竹本駒之助(人間国宝)
  三味線:鶴澤津賀寿(第4回受賞
六、清元「お祭り」
  浄瑠璃:清元美寿太夫、清元清美太夫
  三味線:清元美治郎(第3回受賞
  上調子:清元栄吉
七、地歌「残月」
  歌・箏:米川敏子(第2回受賞
  歌・三弦:藤井昭子(第7回受賞
八、長唄「其面影二人椀久」
  唄:杵屋直吉(第1回受賞)、松永忠次郎(第12回受賞)、杵屋巳之助、杵屋喜太郎
  三味線:今藤長龍郎(第9回受賞)、松永忠一郎、今藤政十郎、今藤龍市郎
  小鼓:藤舎呂英(第10回受賞)、梅屋右近、堅田喜三郎
  太鼓:福原百之助
  笛:福原寛