公演情報

鎮魂のうたまい

2013年3月11日(月)開催

(東京・紀尾井ホール)

小島美子(とみこ)氏(国立歴史民俗博物館名誉教授・日本音楽史)とその仲間たちが集う談話会「邦楽サロン とみ庵」のメンバーによって、東日本大震災からちょうど2年となった2013年3月11日、東京・紀尾井ホールで開催された「鎮魂のうたまい」。「第Ⅰ部 鎮魂のまい」と「第Ⅱ部 鎮魂のうた」、そして二時四十六分の「黙祷の鐘」がホールに響きわたり、祈る心に包まれた特別な会となりました。じゃぽ音っと編集部がその模様をお伝えします。

鎮魂の祈りを分かち合う、意義の深いひととき

文:じゃぽ音っと編集部

東日本大震災が発生した2011年3月11日からちょうど2年の歳月を経た2013年3月11日。この日の紀尾井ホールの舞台には、白い屏風が囲み、一本松が聳え立ち、花が供えられています。

「亡き人の魂を呼ぶ笛」

「亡き人の魂を呼ぶ笛」

「鎮魂の祈りのことば」

「鎮魂の祈りのことば」

「巫女舞」

「巫女舞」


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平日の月曜午後にもかかわらず、ほぼ満員の観客席。静かな波の音が会場を包み込むなか、明かりに照らされた雅楽の重鎮、芝祐靖師による神楽笛「亡き人の魂を呼ぶ笛」の透き通る音色が浮かび上がり、能観世流シテ方の関根祥六師が奏上する「鎮魂の祈りのことば」が続きます。三隅治雄氏の献詩に拠り、祥六師自らが節を付けた詞章で「御霊よ静まれ 御霊よ甦れ」と締めくくる、深く大きな祈りを湛えた奏上は集まった観客の想いをひとつにしていきます。

日本舞踊の人間国宝、花柳寿南海(としなみ)師が二人の舞人とともに御霊に捧げた巫女舞は、心洗われる笛や鈴の音とともにどこまでも美しく清らか。東日本大震災で被災した東北地方の岩手県、早池峰(はやちね)神楽(世界無形文化遺産)より大償(おおつくない)神楽「山の神舞」。賑やかな囃子が響きわたり、八十二歳の名手、佐々木隆さんの気迫に満ちた力強い舞が披露され、会場の拍手に包まれながら「第 Ⅰ 部 鎮魂のまい」の幕が閉じられます。

大償神楽「山の神舞」

大償神楽「山の神舞」

大償神楽「山の神舞」

大償神楽「山の神舞」

小島美子氏

小島美子氏


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休憩をはさみ、「ウィークデーの昼間というお集まりにくい時間に本当にありがとうございます。二時四十六分にみなさんとご一緒に黙祷したいと思っています。鎮魂というのが日本の芸能の原点といいましょうか、たとえば神楽やお能、あるいは平家琵琶などにしましても、中世は亡くなった方たちが非常に多かったわけで、そういう人たちの霊を慰めるという意味から、もともと出来上がっていると思うんです。私たちは芸能に関係するものとして、鎮魂のために何かしないってことはない、というふうに思いましてお誘いしました。みなさんどうぞこの3.11を心に深く刻み込んでおいていただきたいと思います。それが今日の願いでございます」と企画・構成を手掛けた小島美子氏からのお話があって間もなく、舞台に据えられてある編鐘(へんしょう)と呼ばれる中国古代楽器の鐘の音が響きわたり、会場全員が立ち上がって二時四十六分に黙祷。

「黙祷の鐘」

「黙祷の鐘」

「第 Ⅱ 部 鎮魂のうた」では現在の日本音楽界において重きをなす演奏家が一堂に会しました。

「魂を招く尺八」では山本邦山師、中村明一(あきかず)師の二つの尺八の音が宙を舞い、そののち、岡野弘彦氏の歌集「美しく愛しき日本」から田中英機氏が選歌・構成した「鎮魂の祈りのうた」が始まります。箏群のトレモロの音が徐々に最大限に達する前奏ののち、「山は裂け 海や死にする 人や死にする 死すれこそ 人は祈りて ひたぶるに生く」という歌を中心に、すべての演奏家一人一人の声や楽器をつないでゆく、スケールが大きくドラマティックな構成。作曲を手掛けた中村明一師が指揮をとり、山田流箏曲、生田流箏曲、常磐津、端唄、民謡、沖縄、現代邦楽といった日本音楽の種目や流派を超えて集まったメンバーによる演奏。深い鎮魂から生み出された、この世に二つとない美しい結晶が目の前に現われたかのような、夢のようなこの上ない舞台となりました。

「魂を招く尺八」

「魂を招く尺八」

「鎮魂の祈りのうた」

「鎮魂の祈りのうた」

「未来の歌」

「未来の歌」


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星のコーラス、地球クラブコスモスの子供たちが「あそぼあそぼ、みんなであそぼ、遠くにいった友達もいっしょにあそぼ…」と歌いながら手をつなぎ舞台に現れる「未来の歌」にも、生きる側の人間としてあらためてハッとさせられる心持ちになります。そこへ小島氏と花柳寿南海師ほか、すべての出演者やスタッフが舞台に勢ぞろいし、満場の拍手のなか終演。鎮魂の祈りを分かち合う、意義のたいへん深いひとときとなりました。

終幕。花柳寿南海師、小島美子氏を囲んで

終幕。花柳寿南海師、小島美子氏を囲んで

プログラム

[企画・構成] 小島美子

第  Ⅰ  部 鎮魂のまい

静かな海
亡き人の魂を呼ぶ笛
[作曲・神楽笛演奏]芝祐靖(日本芸術院会員)
鎮魂の祈りのことば
[詩]三隅治雄 [節付・奏上]関根祥六(能観世流シテ方)
巫女舞
[振付・舞]花柳寿南海(人間国宝) [舞]橘芳慧 佐藤太圭子
大償神楽 山の神舞
[舞]佐々木隆 [囃子]阿部輝雄(太鼓) 佐々木金男(手平金) 佐々木栄一(手平金) 吉田伸一朗(笛)

【黙祷の鐘】  高江洲義寛 .

第  Ⅱ  部 鎮魂のうた

[歌]岡野弘彦 歌集「美しく愛しき日本」より
[作曲]中村明一 [三味線手付]常磐津英寿 照喜名朝一 本條秀太郎
魂を招く尺八
[尺八]山本邦山(人間国宝) 中村明一
鎮魂の祈りのうた
[歌と箏]富山清琴(人間国宝) 萩岡松韻 矢崎明子 友渕のりえ 深海さとみ
[十七絃]菊地悌子 [二十五絃]野坂操壽
[三味線]常磐津英寿(人間国宝) [歌]栄芝 [歌と三味線]本條秀太郎
[歌と三味線]照喜名朝一(人間国宝) [琉球箏]名嘉ヨシ子 [三十絃]宮下伸 〔演奏順〕
未来への歌
[星のコーラス]小山里按 小泉絢 石川永都 桜庭好誠 余村莉星(指導:繁下敏子)
[地球クラブコスモス]中澤礼 大田稀優 中元粋 原田祐里 猪野若菜 猪俣桃香 田村温 榎畑碧 永井みき(指導:宮下晶子)

[全体指導]柁原年

(公演プログラムより転載)