公演情報

第32回伝統文化ポーラ賞奨励賞受賞記念 林 美音子 地歌リサイタル

2012年10月28日(日)開催

(京都府立府民ホール・ALTI)

当財団の邦楽技能者オーディションに合格し、記念CD「柳川三味線/林美音子」を発表。先頃、公益財団法人ポーラ伝統文化振興財団主催の第32回伝統文化ポーラ賞奨励賞を受賞した柳川(やながわ)三味線の林美音子(みねこ)さん。受賞記念として行なわれた第2回のリサイタルが、客演に京舞井上流五世家元の井上八千代師を迎えて京都で盛大に行なわれました。その模様をじゃぽ音っと編集部がお伝えします。

長く愛されてきた京都生まれの芸能の奥深さ

文:じゃぽ音っと編集部

「残月」
「残月」

「残月」

林美音子さんの第2回リサイタルが、京都府立府民ホール・ALTI(アルティ)で行なわれた。今回は伝統文化ポーラ賞奨励賞を受賞しての記念公演となり、会場には多数の観客が訪れていた。開演を迎えた拍手がいったん静まり返ると、京三味線と呼ばれる柳川三味線の二つの音色がゆったりと重なり、おごそかに響きあう。歌・替手に林美音子さん、本手に美音子さんの母、林美恵子さんによる手事物「残月」。有明の月を「残月」といい、若くして世を去った愛弟子の面影を重ねた追善曲で、峰崎勾当の作曲。深い情愛を感じさせる重厚な歌と芯の強い京三味線の音が、静かな明け方の遠い空に向かって響きわたるようだった。手事に入ると一転、音が弾んで明るいムードとなり、愛弟子だった娘の在りし日の面影が映し出されたかのよう。この手事部分は菊吉検校による「三下がり残月」の替手を用いているとのこと。

「たぬき」
「たぬき」

「たぬき」

次に林美音子さんの歌と柳川三味線による「たぬき」。宴席でなかば即興的に披露されたものが現在に伝わり、作物(さくもの)と呼ばれている曲種のなかのひとつ。その内容に滑稽な描写と教訓がこめられたものが多く、曲が成立した当時、日本語で出回っていた「イソップ物語」の影響があったのではと考えられている。水田を荒らす狸を稲守が鉄砲で撃とうとすると、その狸は身重なので助けてほしいと命乞いをする。聞き入れてもらった狸がその礼として、腹鼓を稲守に披露するという筋書きで、曲は稲守のひとり語りから始まる。手事では、飛び跳ね鼓を打つ狸の生き生きとした動きが林美音子さんの京三味線の鮮やかな手さばきで存分に表現され、前半の聴きどころとなった。

「雪」
「雪」

「雪」

休憩をはさみ、端歌物(はうたもの)「雪」。作曲は「残月」と同じく峰崎勾当で、俗世を振り払って出家した元芸妓ソセキの述懐を歌詞にしている。 心も遠き夜半の鐘」という詞のあとに入る「雪の手」という雪の情景を描写するフレーズが他の種目で数多く使われ、端歌物の傑作として名高い一曲。またこうした端歌物は、お座敷で舞とともに演じられることが多い曲種で、今回は客演として京舞(きょうまい)の井上八千代師が舞台にあがる。背後に立てられた屏風と二本の蝋燭が正面左右に配置された舞台に、歌・柳川三味線の林美音子さん、箏の林美恵子さんによる「地」に乗せ、伝統的な座敷舞の形式で披露。京舞とは京都祗園甲部の井上流が伝承する座敷舞のことで、能の仕舞の動きを取り入れた無駄のない舞振りが特色。静かな動きのなかに情感を凝縮したかのような舞は、地とあいまって気高く美しく舞台に映えていた。

地歌のさまざまなスタイル――手事物、作物、そして端歌物では座敷舞とのコラボレーションで披露された今回のリサイタル。地歌三味線最古の流派である柳川三味線が持つ独特の音色のみならず、追善や宴席、お座敷といったさまざまな場面で長く愛されてきた京都生まれの芸能の奥深さを、あらためて感じさせるものとなった。

撮影:KANKI KASAI(リハーサル時に撮影)

関連作品

CD「柳川三味線/林美音子」

プロフィール

林 美音子

幼少期より地歌箏曲の古典を母・林美恵子に、柳川三味線を津田道子師に、現代邦楽を沢井忠夫師に師事。国内のみならず、ポーランド文化芸術省・日本大使館後援公演、中国蘇州市外事弁公室国際交流センター招聘公演など、グローバルな演奏活動を行う。2011年、くまもと全国邦楽コンクールにて優秀賞を受賞。続いて(公財)日本伝統文化振興財団「邦楽技能者オーディション」にて合格記念CD『柳川三味線/林美音子』をリリース(販売元ビクターエンタテインメント)。同年11月、文化庁芸術祭参加公演「林美音子地歌リサイタル」開催。2012年NHK総合『天上の天朝美 京都・修学院離宮』では、屏風画に描かれた三味線を題材に、京文化における柳川三味線の存在価値に焦点が当てられ、出演。「都十二月」を演奏した。同年『アジアの箏の現在CLUMUSICA第6回公演』では初演2作品を演奏。文化庁主催「集まれ!次世代の表現者たち」に出演するなど、柳川三味線の継承を中心に、現代における邦楽の在り方を模索し、新たな境地へと挑戦を重ねている。
また、2010年頃より教育現場における指導にも力を注いでおり、京都教育大学付属桃山小学校の和楽器講師、京都女子大学ゲストスピーカーなどを務め、邦楽を未来に繋ぐ架け橋としての役割も担う。
その他、ラジオ・新聞・雑誌等のメディアでも多数取り上げられる。
2012年、公益財団法人ポーラ伝統文化振興財団による、第32回伝統芸能ポーラ賞奨励賞を受賞。

林美音子 公式ホームページ http://mineko-h.com/

客演 井上八千代〈京舞〉

京舞井上流五世家元。観世流能楽師片山幽雪(九世片山九郎右衛門・人間国宝)の長女として京都に生まれる。祖母井上愛子(四世井上八千代・人間国宝)に師事。1959年井上流入門。1970年井上流名取となる。1975年学校法人「八坂女紅場学園」(祗園女子技芸学校)の舞踊科教師になる。1999年芸術選奨文部大臣賞。同年、日本芸術院賞受賞。2000年五世井上八千代を襲名。

林 美恵子

生田流京都系で、柳川流三味線の奏者。京都当道会の大師範、京都教育大学の非常勤講師。京都にだけ伝承されている柳川三味線を継承。八重崎検校の流れを汲む京都下派の三好敦子に師事。また、柳川流古典を津田道子に師事。

※公演プログラムより転載