鈴木真為演奏会第二回 歌・箏・三絃による〈言の庭(ことのにわ)〉
2010年10月24日(日)開催
(東京・紀尾井小ホール)
昨年、当財団の第10回邦楽技能者オーディションに合格し、CD作品を発表。これからの活躍が大いに期待される山田流箏曲演奏家、鈴木真為さんの第二回演奏会が東京・紀尾井小ホールで開催されました。数多くの助演者を迎え、古典曲、CD収録曲、新作箏歌を披露し、観衆を魅了したコンサートの模様をお伝えします。
古典曲、新作曲を包み込んだ「言の庭(ことのにわ)」
文:じゃぽ音っと編集部
山田流箏曲の新進演奏家、鈴木真為さんの第2回目となる演奏会が行なわれた。日本音楽には浄瑠璃に代表される「語りもの」と箏曲に代表される「歌いもの」の流れがあり、箏を「弾き歌う」箏曲、とりわけ「歌」が大きな比重を占める山田流箏曲は江戸時代後期に江戸を中心に広まったもの。鈴木さんが演奏会タイトルを「言の庭(ことのにわ)」と銘打ったように、“言=ことば”、“庭=四季が織り成す自然の情景”を古典曲と新作箏歌を交えて広く包み込んだ演奏会となった。
まず最初に演奏されたのは「初音曲」。光源氏波乱の生涯、いっときのおだやかな情景が描かれた源氏物語「初音」の巻に材を取り、古典文学の深遠なテーマ「もののあわれ」の境地を巧みに表した、流祖山田検校、唯一の箏組歌として知られる。彼女にとっての「箏の弾き歌いの原点」という思いを示したオープニングが終わると、聴衆から盛んな拍手が寄せられた。
続く「秋の曲」は、古今和歌集に着目した吉沢検校が箏曲の復興を志し江戸時代後期に作曲した「古今組」と呼ばれる5曲のなかのひとつで、その格調の高い旋律や精緻な手事を味わう。山登松和師を助演に迎え、和歌を織り込んだ歌と二面の箏が描き出す雅な情景にしばし聴き入る。
歌・箏に草間路代師、歌・三絃に谷珠美師を迎えた三曲目「桜狩」は、今年1月に発表されたCD「山田流箏曲 鈴木真為」に収録されている。山田検校の作品のなかで合の手が最も長いといわれる名曲が紡ぎ出す、粋な情景を華やかに披露。収録時の編成による貴重な生演奏となった。
終曲は「新作箏歌 星合曲」(田村博巳構成、寺嶋陸也作曲)。古代中国発祥といわれる牽牛織姫の物語に材を取り、寂蓮、山上憶良の歌や神楽歌を挿入した箏歌。雅楽に使われる和琴の節を表現する調弦(低い六弦分に相当)を指ではじき、残りの七弦はそれ以外に充てるという変則的な調弦。その箏と歌にしっとり寄り添う幽玄な笛の音が情趣をいっそう駆り立てる。照明を落とした舞台に浮かび上がる、左右一対の燭台の火は天の川対岸の二つの星を示し、そのあいだの天の川でひとり、箏を弾き歌う姿は、星に願いをこめて催されていた在りし日の祭祀の幻想的な情景へと聴き手をいざなう。それはコンサートの締めくくりを飾るのにふさわしい一幕となった。
原点から出発し、新作箏歌で閉幕した演奏会。歌を大切にする山田流箏曲演奏家のひとりとして、「ことば」と「四季が織り成す自然の情景」をテーマに見据えた活動は、新しい世代の波となっていくように感じられた。
●関連作品
山田流箏曲/鈴木真為(第10回邦楽技能者オーディション合格者)
VZCF-1023
■プロフィール
鈴木真為
1978年 | 東京都生まれ。幼少より母から箏の手ほどきを受ける。 |
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1994年 | 山田流箏曲を谷珠美師に師事。 |
1997年 | 東京藝術大学音楽学部邦楽科山田流箏曲専攻入学。在学中、箏・三絃を故増渕任一朗師、井口法能師、山勢松韻師、岸辺美千賀師、箏組歌を鳥居名美野師、亀山香能師、合奏研究を野坂操壽師に師事。副科として長唄を東音浅見文子師、清元を清元志佐雄太夫師、常磐津を常磐津文字太夫師、謡曲観世流を野村四郎師に師事。 |
2000年 | 安宅賞受賞。 |
2001年 | アカンサス音楽賞受賞。東京藝術大学同声会主催新人演奏会出演者に選ばれる。同時に同声会賞受賞。東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程山田流箏曲専攻入学。在学中、箏・三絃を故増渕任一朗師、井口法能師、地歌三絃を芦垣美穂師、関連箏曲を萩岡松韻師に師事。 |
2002年 | 河東節(三味線)を人間国宝山彦千子師に師事。 |
箏とフルートのDuo「Lips」を結成。以降国内外各地でコンサートを行う。これまでにCD「Lips」「光色—hikariiro—」をリリース(Waternet.SG.Inc)。 | |
2003年 | 東京藝術大学大学院音楽研究科学位論文『山田検校〈熊野〉〜歌唱表現を中心に〜』にて修士号取得。 |
東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程山田流箏曲専攻修了。 | |
東京藝術大学推薦によりデビューリサイタル開催(旧東京音楽学校奏楽堂)。 | |
NHK-FM「邦楽のひととき」初出演。 | |
2004年 | 河東節(浄瑠璃)を人間国宝山彦節子師に師事。 |
2005年 | テレビ朝日「題名のない音楽会21」出演。 |
山田流箏曲と生田流箏曲のDuo「真結」を結成。以後年二回、目白庭園赤鳥庵を中心に演奏会を開催。 | |
第十二回賢順記念全国箏曲コンクール銀賞受賞。 | |
2006年 | 山彦節子師に山彦真為の名を許される。 |
第二十二回「明日をになう新進の舞踊邦楽鑑賞会」に出演(国立文楽劇場)。 | |
2007年 | 鈴木真為演奏会第一回〈歌・箏・三絃による言の庭〉開催(国立能楽堂研修能舞台)。 |
2009年 | 第十五回長谷検校記念全国邦楽コンクール優秀賞受賞。 |
第十回日本伝統文化振興財団邦楽技能者オーディション合格。 | |
民俗と都市の芸能「江戸の囃子と箏歌」出演(静岡音楽館AOI)。 | |
韓国国立芸術総合大学校主催公演・世界無形文化財招聘シリーズに出演。 | |
2010年 | CD「山田流箏曲 鈴木真為」リリース(日本伝統文化振興財団)。 |
NHK邦楽オーディション合格。 |
谷珠美邦楽研究グループ、珠の会、箏曲新潮会、財団法人古曲会各所属。 Lips同人。真結同人。