公演情報

第十四回 日本伝統文化振興財団賞贈呈式

2010年5月27日(木)開催

(アイビーホール青学会館)

当財団が主催し、今年で第14回を数える日本伝統文化振興財団賞。将来のいっそうの活躍が期待される優秀なアーティストを毎年一名顕彰し、副賞としてDVDを制作。その技芸を国内外に向けて広く紹介しています。今年の受賞者は大和楽 三味線方の大和櫻笙さん。将来性に大きな期待が寄せられての受賞となった贈呈式の模様をお送りいたします。

日本の伝統文化、伝統芸能の将来を担う優秀なアーティストを顕彰

文:じゃぽ音っと編集部

わが国の伝統文化の保存、振興、普及を目的する日本伝統文化振興財団が、将来を担う優秀なアーティストを顕彰している財団賞。第14回の受賞者は大和楽の三味線方、大和櫻笙さん。古典を基盤とするすぐれた演奏成果、新たな創作への取り組みに大きな期待が寄せられての受賞。さらに副賞としてDVDの制作と発表が予定されている。

藤本草理事長の挨拶

藤本草理事長の挨拶

「日本の伝統芸能、伝統文化の世界を少しでもより広げていきたい。これからの自国の文化をどう育てるか、ということへの思いを深くしていただければ」と語る藤本草理事長の挨拶で会は幕開きとなる。各界から松村惠司氏(文化庁文化財鑑査官)、花柳寿南海氏(日本舞踊、人間国宝)、浮島とも子氏(参議院議員)、城内実氏(衆議院議員)の祝辞、また小宮山泰子氏(衆議院議員)からのメッセージも添えられた。

三枝孝榮氏による選考経緯紹介

三枝孝榮氏による選考経緯紹介

これまでに14回を重ね、さまざまな伝統芸能分野から多士済々の顔ぶれとなってきた財団賞受賞者。今回の受賞者、大和櫻笙さんは大和楽、三味線方のアーティスト。「大和楽」はホテルオークラなどの創始者で実業家、大倉喜八郎氏の嫡子で音楽研究家として知られた大倉喜七郎氏が昭和初期に創始。洋楽風の要素を取り入れた、芸能史においては“新邦楽”という位置づけだが、現代の日本舞踊界において欠かせない音楽である。選考委員を代表して三枝孝榮氏が選考経緯を紹介する。大和櫻笙さんについて「非常に繊細な音、間のうまさはもちろんのこと、藤間勘十郎さんと会を作っておやりになっていること、また作曲を数多く手がけられていること、大和楽の担い手として三代目の家元を襲名する予定であること」と語り、「さまざまなジャンルの方のなかから、長時間を費やし、とくに将来性を大きく考え選考させていただきました」と力説する。

「私がこの賞で何よりもうれしかったことは、昭和の初めからというまだ歴史の短い大和楽が、古典邦楽と同様に評価をしていただけたということ。これからも多くの方々に愛される大和楽を目指していきたいと思います」と受賞の言葉を語った大和櫻笙さん。昨年の受賞者、遠藤千晶さん(生田流箏曲)より花束の贈呈。その後、披露演奏が始まった。

贈呈式
贈呈式
贈呈式

贈呈式

曲は自身の作曲による「櫻舟(さくらぶね)」。昨年作曲したという初めての器楽曲で、忍ぶ恋仲の一夜をテーマにした作品。大和櫻笙さんが男性を描写する低音三味線、笘舟(とまぶね)こと藤間勘十郎さんが女性を描写する高音三味線。この二つの楽器を中心に、鼓、笛、箏を配した総勢5名での演奏。

力強く豊かな響きの低音三味線と寄り添うような高音三味線。鼓、箏のそれぞれの音の特質を生かした優雅で和やかな前奏部のあと、笛が加わり、勇壮でダイナミックなアンサンブルへ舞い上がる。その後ふたたび静まり返る夜の空気と男女の切ない余韻を思わせ、演奏はしっとりと終わる。旋律や楽器こそ日本の古典音楽に根ざしているが、楽器の特性を生かした自由なアンサンブルやドラマティックな構成に明快さがあり、日本舞踊とともに海外でも大いにアピールできる可能性を秘めている。

披露演奏 大和楽「櫻舟(さくらぶね)」
披露演奏 大和楽「櫻舟(さくらぶね)」

披露演奏 大和楽「櫻舟(さくらぶね)」
三味線 大和櫻笙、笘舟(藤間勘十郎)
鼓 藤舎千穂
笛 藤舎推峰
箏 川瀬露秋

無形文化遺産である自国の伝統文化を守るだけではなく、あらたな創造によって将来へ継承していくことが確かに示された演奏に、海外公館約20カ国からの大使、公使を含む多くの出席者からひときわ大きな拍手が贈られた。

プロフィール

大和櫻笙

やまと おうしょう

1977年東京都生まれ。父は大和楽二代目家元・大和久満(長唄三味線方、芳村伊十七)。初舞台は2歳。10歳より今藤郁子に師事。16歳より故・東音田島佳子に師事。92年、大和楽を創設した大倉家より「大和櫻笙」の名を許される。96年、東京藝術大学音楽学部邦楽科に長唄三味線で入学。在学中に浄観賞を受賞。2000年同大学を卒業後、本格的に大和楽三味線の修業を始める。05年、岩井梅我、清元清美太夫と「若翔會」を結成。同年日本橋劇場にて公演。 08年、藤間流八世宗家家元・藤間勘十郎と「櫻舟」を結成。翌年内幸町ホールにて公演。10年2月、第二回「櫻舟」を同ホールにて開催。同年、大和櫻笙「大和楽勉強会」を主催。内幸町ホールにて公演。2014年に大和楽三代目家元を襲名予定。現在は主に日本舞踊の地方として国立劇場、歌舞伎座などに出演するほか、テレビ、ラジオ、映画音楽にも出演。主な作曲作品は『初恋』(詞・島崎藤村)、『御殿の櫻』(詞・金子みすゞ)、『日高櫻恋俤』(詞・苫舟)、『おちょぼ』(詞・苫舟)、『櫻舟』(器楽曲)など