公演情報

山勢松韻演奏会

2010年3月28日(日)開催

(東京・国立劇場 小劇場)

山田流箏曲の人間国宝、六代山勢松韻師の演奏会が、2010年3月28日国立劇場にて開催されました。花の季節の到来を告げるかのような盛況ぶりで、磨き抜かれた松韻師の技芸に多数の聴衆が酔いしれました。多彩な演目、豪華な助演者が揃った演奏会の模様をお届けします。

幅広さと奥行きの深さに、芸系の重さをも感じられた有意義な一日

文:じゃぽ音っと編集部

 桜の花がほころび始めた3月下旬。山田流箏曲演奏家、山勢松韻師の演奏会が国立劇場(小劇場)で開催された。まだいくぶん肌寒い日にもかかわらず、松韻師の久しぶりとなる会には、春を待ちわびていたかのように大勢の聴衆が詰め掛けた。

雲井曲
雲井曲

 江戸時代初期(17世紀)に八橋検校が創始した箏曲。その組歌や段物を伝承した生田検校が生田流と称して京都や大阪、名古屋を中心に発展。さらに18世紀後半の江戸で山田検校が浄瑠璃などの語りものを取り入れた新たな箏曲分野を開拓した。この山田検校の直門にあたる山登家、山木家、山勢家を中心に発展した山田流は、明治、大正、昭和を経て今に至っている。この御三家のひとつ山勢家の六代目が現在の山勢松韻師なのである。

 山勢師の演奏による八橋検校の箏組歌「雲井曲」から会はスタート。第五歌から、「巾の調」に山勢麻衣子氏が加わり、青を基調とした幻想的な照明とあいまって、繊細な恋の心模様を紡ぐ古雅の趣に酔いしれる。

雲井曲
雲井曲
雲井曲

雲井曲

 第二曲は「熊野(ゆや)」。京都の春、平宗盛の花見の宴で舞う熊野。東国に住む母の病への思いを歌にした熊野に心を打たれ、熊野の帰国を許す宗盛――能の演目として知られるこの曲は、花見の宴などの場面の描写と無常観を漂わせる幽遠な風情が聴きどころ。岸辺美千賀師と一中節の都了中師の助演により、浄瑠璃の語りもの的な要素が強調され、山田流ならではの味わいがいっそう増した舞台となった。

熊野(ゆや)
熊野(ゆや)
熊野(ゆや)

熊野(ゆや)

 第三曲は、生田流箏曲演奏家野坂操壽師と琴古流尺八演奏家徳丸十盟師を迎えた三曲合奏「宇治巡り」。松浦検校作曲による“松浦四つ物”のひとつで、高度な技巧が必要な難曲として知られる。名高い宇治茶の銘を重ねていく、「物尽くし」と呼ばれる歌詞で、粋で洒脱な味わい。三つの楽器が奏でる、細やかで華やかな演奏に心躍る。

宇治巡り
宇治巡り
宇治巡り
宇治巡り

宇治巡り

 ラストを締めくくったのは、山勢松韻師も師事した中能島欣一の作曲、高野辰之作詞による「八幡船(ばはんせん)」。かつて朝鮮や中国、南海地域で猛威をふるった“倭寇船”を日本では八幡船といい、中世歌謡や発表当時(戦前の昭和時代)の歌謡を引用する工夫が凝らされた、スケールの大きい作風。唄の松韻師を座の中心に据え、唄5名、箏6面、十七弦、三弦、尺八の総勢15名からなり、緻密で迫力のあるアンサンブルが楽しめた。さまざまな条件から実際に聴ける機会がきわめて少ない、こうした作品にスポットが当てられたことは特筆に値することだろう。

 幻想的な深青の照明に包まれた光景で終演。聴衆からの大きな拍手が広い会場に鳴り響いていた。

八幡船(ばはんせん)
八幡船(ばはんせん)
八幡船(ばはんせん)
八幡船(ばはんせん)
八幡船(ばはんせん)

八幡船(ばはんせん)

 伝統の重みを感じるオープニング、春の季節を感じる演目、心躍る華やかな逸品、さらに演奏機会の少ない楽曲……。練りに練られた聴き応えのある演目がそろい、箏曲が持つ音楽的な幅広さと歴史に裏打ちされた奥行きの深さをあらためて感じた、じつに有意義な会となった。

プログラム

雲井曲

箏:山勢松韻 巾の調:山勢麻衣子

熊野

箏:山勢松韻、岸辺美千賀 三絃:都了中

宇治巡り

箏:野坂操壽 三絃:山勢松韻 尺八:徳丸十盟

八幡船(ばはんせん)

唄:山勢松韻 箏高音:中能島弘子
唄:武田祥勢、加藤貞勢、渡邊好勢、三橋乙勢、金子未衣勢
箏高音:奥山益勢、利根川倫勢、城ヶ﨑明雪勢
箏中音:山勢麻衣子、仲山純勢 十七絃:高畠一郎 三絃:東音宮田由多加 尺八:徳丸十盟

関連作品
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VZCG-8286~8290