公演情報

杵屋裕光 第二回納涼浴衣会 夢の競演

2009年7月13日(月)開催

(東京・日本橋劇場)

 

昨年、豪華なゲストを迎え、エレクトリックとアコースティックなサウンドを融合させた力作『地球→日本』を発表した、長唄三味線奏者・杵屋裕光さん。“第二回 納涼浴衣会夢の競演”と題したコンサートが7月13日の昼夜二回、日本橋劇場にて行なわれました。さまざまな趣向で観客を大いに沸かせたまさに“夢”の競演。夜の部のコンサート・レポートをお送りします。

豪華なメンバーによる現在進行形フュージョン・サウンド

文:じゃぽ音っと編集部

邦楽に“唄”と名の付くものは数多い。小唄、端唄、長唄……馴染みがないと区別がつきづらいかもしれない。こうした“唄”が付くもののなかでも、長唄は柔軟で間口が広い。江戸時代、歌舞伎の隆盛とともに人口に膾炙し、お座敷へ。また日本舞踊の伴奏音楽として親しまれ、昨今でも時代劇映画のバック・ミュージックに使われるなど、舞台を飛び出し、お茶の間へと広がっていった生粋のポップ・ミュージック。そんな長唄のおいしいさまざまな要素を詰め込み、普通の邦楽では実現し得ない豪華なメンバーが集まったコンサートが、この“杵屋裕光 第二回納涼浴衣会 夢の競演”なのだ。

「舌出し三番叟(さんばそう)」
「舌出し三番叟(さんばそう)」

会はいわばアコースティック・サイド、エレクトリック・サイドの二部構成。司会は山田邦子。NHK『いろはに邦楽』のナビゲーターを務めたのがご縁ですとのこと。コミカルな司会ぶりで会場に笑いを誘い、ステージ前や合間の待ち時間を見事に忘れさせてくれる。

アコースティック・サイドの幕開けは、裕光の甥・安達琳太郎さん、姪・安達友音さんを立方に、囃子に人間国宝・堅田喜三久、堅田新十郎、安倍弘朗の三代揃いぶみという「舌出し三番叟(さんばそう)」。五穀豊穣、天下泰平を祈って舞う能の「翁」を題材にしたご祝儀曲「三番叟」もののひとつで、立方のキャストといい、華やかな内容といい、最高の出だし。

「縮緬浴衣(ちりめんゆかた)」「吉野山」
「縮緬浴衣(ちりめんゆかた)」「吉野山」

次に細棹三味線とシンセサイザーによる新感覚端唄「縮緬浴衣(ちりめんゆかた)」。恋する女性の心情を映し出した唄に、細棹とシンセサイザーがしっとりと寄り添っていく。そこへさらに情感深い端唄「吉野山」(歌舞伎や人形浄瑠璃の演目『義経千本桜』四段目より)が続き、夏のせつない夕涼みの気分が味わえた。

「勧進帳」「二人椀久」
「勧進帳」
「二人椀久」
「二人椀久」

そして大一番の「勧進帳」「二人椀久」へ。長唄、三味線、御囃子、笛の大編成は、舞台音楽の長唄ならでは。勇壮な掛け声と間を巧みに取り入れた御囃子のアンサンブル。スピーディで流麗なフレーズに目を見張る三味線。そして全身を振るわせて響き渡る唄が結集したダイナミックなサウンドに、観衆はただただ圧倒。山田邦子も「勧進帳」では三味線演奏で加わり、華を添える。

いよいよエレクトリック・サイド。CD『地球→宇宙』でのバッキングはプログラミングされていたが、今回はなんと生バンドのバッキング。しかも、渡辺香津美のギター、鳴瀬喜博のベース、菅沼孝三のドラムス、CDではプログラミングで参加した盟友、小西貴雄のキーボードという日本のジャズ/フュージョン界でこれ以上ありえないほどの布陣。そこへ『地球→宇宙』に参加した人間国宝の山本邦山、堅田喜三久が参戦。さらに本会に参加したメンバーも加わり、“大・大団円”に雪崩れこんでいき、そのあまりに豪華な取り合わせに観衆は驚きと興奮に包まれつつ、終会。最後におまけとして、三味線での「禁じられた遊び」(ギターでおなじみ)を皮切りに和洋新感覚セッション風のメンバー紹介も楽しい余韻となった。

豪華な取り合わせに興奮
豪華な取り合わせに興奮

豪華な取り合わせに興奮
豪華な取り合わせに興奮


豪華な取り合わせに興奮

強靭なエレクトリック・ファンク・サウンドに負けない、しなやかでエッジの利いた長唄の世界。江戸時代から現在まで、大衆文化の広がりとともに日本のさまざまな音楽を集約し発展させ、親しまれてきたのと同じく、今後も現在進行形のフュージョン・サウンドとして発展していく可能性はけっして夢ではない、そんな心持ちになる華やかなステージだった。

関連CD

『地球→日本 THE EARTH→JAPAN』
VZCG-660(CD)2,800円(税抜 2,667円)

杵屋裕光×利光『寶結』
VZCG-697(CD)3,000円(税抜 2,857円)

杵屋裕光 第二回 納涼浴衣会夢の競演 番組

舌出し三番叟[文久九年(1812年) 作詞:二代目 桜田治助 作曲:二代目 杵屋正治郎]
縮緬浴衣[平成二十一年七月 初演 作詞・作曲:六九家裕光]
吉野山
二人椀久[安永三年(1774年) 作曲:錦屋金蔵]
勧進帳[天保十一年(1840年) 作詞:三代目 並木五瓶 作曲:二代目 杵屋六三郎]
地球
千鳥
水の行方
稲妻
(以上CD『地球→日本』より)
光線

杵屋裕光 第二回 納涼浴衣会夢の競演 出演者(順不同/敬称略)

人間国宝・堅田喜三久(鳴物) 杵屋利光(長唄) 安達琳太郎 安達友音(以上舞踊) 安倍弘朗 堅田新十郎(以上鳴物) 花季登喜葉(端唄) 人間国宝・山本邦山(尺八) 渡辺香津美(ギター) 鳴瀬喜博(ベース) 菅沼孝三(ドラムス) 小西貴雄(キーボード)
東音味見純 杵屋巳之助(以上長唄) 今藤長龍郎 杵屋勝十朗 杵屋裕太郎(以上三味線) 堅田喜三郎 望月秀幸(以上御囃子) 鳳声晴久(笛)
三味線/司会・山田邦子