公演情報

箏曲 亀山香能 ライブ&トークvol.13

2007年4月22日(日)開催

(東京日暮里・養福寺)

亀山香能師が定期的に開いているライブ&トークvol.13が、4月22日日曜の午後、東京・谷中のお寺にて開催されました。貴重な競演を目の当たりにできるのはもちろん、ゆったりと楽しいトークとともに会は進行し、お寺のお庭の素晴らしい景色を眺め、お茶を飲むなど味わい深いひとときとなりました。その模様をお届けします。

文:笹井邦平

牡丹を背に雅びの世界へ

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養福寺の門には八重桜、庭には牡丹が咲き誇る

山田流箏曲の中堅・亀山香能(かめやまこうの)師が年2回のペースで東京で開催しているライブの会場はJR日暮里駅にほど近い谷中のお寺の大広間。土手の下をゴーゴー走る電車の音をものともせずに雅びやかな和の世界へいざなってくれる。

折しも庭に今を盛りと咲き誇る早咲きの牡丹を背に休憩にいただくお茶とお菓子をたしなみながら弥生の日曜の午後のひと時ゆったりとした時が流れる。

シンプルゆえにパッショナブル

photo-b.jpg亀山香能師の弾き歌い「おもひで」

ファーストプログラムは薄田泣菫作詞・鈴木鼓村作曲・京極流箏曲(きょうごくりゅうそうきょく)「おもひで」。京極流は明治30年代に当時の華やかな洋楽趣味のアンチテーゼとして生まれた純日本風の箏曲、三絃(三味線)との合奏はせず箏の弾き歌いのみで演奏するシンプルな音楽である。

亀山師は同流の三代目宗家・和田一久(わだかずひさ)師に師事して現在9曲ほど習得していて、最近のライブのファーストプログラムとしてその中から選んでいる。

「歌詞がとても良く自分の心に触れるものがあって感性というか肌に合うんです。雅びな中に〈もののあわれ〉を感じるんです」と亀山師は言う。

「おもひで」は過ぎ去った恋の追憶を韻文で美しく綴った詩にシンプルなメロディと伴奏が付いて恋の儚さ・切なさ・甘さを浮き彫りにしている。亀山師の抑えたような箏弾き歌いは逆にその溢れるばかりの熱情を彷彿とさせる。

テンションは鰻登り

photo-c.jpg「竹生島」での藤井千代賀師(左)と亀山師(右)

2曲目は千代田検校作曲「竹生島(ちくぶしま)」を芸大(東京芸術大学)の一級先輩で同じ山田流の藤井千代賀(ふじいちよが)師の箏と亀山師の三絃で合奏。琵琶湖の竹生島に祀られている芸事の神様・弁財天の奇特をテーマにした曲で、生田流にも同タイトルの曲があるが、この曲はクライマックスの「不思議や虚空に音楽聞こえ 花ふり下る春の夜の」という歌詞の後に〈楽(がく)の手〉という山田流独自の厳かで華やかなフレーズが付いていてドラマチックな歌曲となっている。

「かめちゃん」「モーちゃん(千代賀師の本名百代をもじった呼び名)」と呼び合う2人の呼吸(いき)がピタリとあってテンションが鰻登りにあがる。

牡丹に負けぬ艶やかさ

photo-d.jpg「こんかい」での亀山師(左)と西潟昭子師(右)

ラストプログラムは岸野治郎三作曲・佐藤左久箏手付「こんかい」を同じく山田流の芸大の先輩・西潟昭子(にしがたあきこ)師の三絃と亀山師の箏で合奏。

やはり生田流にも同タイトルの曲があるが、箏の調子が低調子なので、30年ほど前にいっしょに山田流の古典を勉強していた西潟師に三絃をお願いしての競演となった。

「こんかい」は姿を見顕して古巣に帰って行く狐の母への思慕を綴った曲で、解説の谷垣内和子(たにがいとかずこ)東京芸術大学講師によればタイトルは狐の鳴き声を表しているという。

その胸張り裂けるばかりの焦がれる想いを亀山師はじわりじわりと滲ませて盛り上げてゆく。西潟師の音締めの良い(調弦のしっかりした)深みのある三絃の音色は古風な趣を湛えて亀山師の歌をサポートする。現代三絃の第一人者としてキレのある演奏をする西潟師のとは思えぬ抑えた三絃の音色を満喫する。

演奏後は藤井師も加わってのトーク、芸大の仲良しトリオで今が旬の山田流女流演奏家の〈揃い踏み〉は谷垣内氏の言葉の如く庭の牡丹に負けぬ艶やかさであった。

笹井邦平(ささい くにへい)

1949年青森生まれ、1972年早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業。1975年劇団前進座付属俳優養成所に入所。歌舞伎俳優・市川猿之助に入門、歌舞伎座「市川猿之助奮闘公演」にて初舞台。1990年歌舞伎俳優を廃業後、歌舞伎台本作家集団『作者部屋』に参加、雑誌『邦楽の友』の編集長就任。退社後、邦楽評論活動に入り、同時に台本作家ぐるーぷ『作者邑』を創立。