公演情報

Friday Traditional Night
弥生の風「続・連琵琶の華麗な競演!」

2006年3月10日(金)開催

上原まり (二子玉川アレーナホール)

“金曜の夜は「伝統芸能」”として、『平家物語』をテーマに1月から月1回金曜に行なわれている筑前琵琶・上原まりさんの連続公演。さまざまな趣向を凝らしたシリーズの、"弥生の風"として3月10日に二子玉川アレーナホールで行なわれた「続・連琵琶の華麗な競演」の模様をお届けします。

文:笹井邦平

セレブの街に女人琵琶法師

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「祇王(ぎおう)」より。写真左から須田誠舟、西川浩平、上原まり。

〈二子玉川〉は世田谷のセレブが集う街。この街のステータス玉川高島屋のキャパ200人程度の小ホールにハナ金の夜眉目秀麗な女人琵琶法師が現れ、『平家物語』をモチーフとした「連琵琶(つれびわ) 清盛」を語る−という噂を聞きつけ、私は興味津々やや遠いが玉川べりの会場に足を運んだ。

客席はすでに満席、いつもの邦楽演奏会の聴衆とは異なった高級化粧品の匂いが香しい。昨年9月に同じ東京の溜池で催された〈連琵琶〉とはカナリ空気が違う。

琵琶は独りで弾き語るのが通常のスタイル、〈連〉とは邦楽用語で〈2人以上で連れて歌う・弾く〉という意味で、「連琵琶 清盛」は元宝塚スターで現在筑前琵琶演奏家として活躍する上原まりと薩摩琵琶の須田誠舟(すだせいしゅう)がデュエットで演奏し、そこに西川浩平(にしかわこうへい)の横笛が平安末期の雰囲気を醸す−という斬新な企画。

平家の家紋を背に

ステージのスクリーンには揚羽蝶が映し出され、これは平家の家紋で歌舞伎「義経千本桜−渡海屋の場」の平知盛の衣裳などに付いている。

今宵の演目は「祇王(ぎおう)」「鹿谷(ししがたに)」「福原(ふくはら)」の3曲。祇王は清盛の寵愛した〈白拍子(しらびょうし−アイドル・某国の『喜び組』)〉だが、清盛の心が他の白拍子に移ったために嵯峨野で尼になった女性の悲劇を描いている。

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トークは、揚羽蝶のスクリーンをバックに和やかな雰囲気。

演奏後のトークで上原が「須田さん、西川さん、男性の傲慢はいつの世も変りませんね」と振ると、「今は女が男を選ぶ時代、女が男をいじめてますよ」と西川がチクリと皮肉る。これには上原も反論できず苦笑するばかり。

「鹿谷」は平家の独裁政権を倒そうとクーデターを企む貴族や僧侶が仲間にチクられ、清盛の怒りを蒙り死罪や島流しになる話。この僧侶の悲哀を歌舞伎「俊寛」は鮮明に描いている。

福原は現在の神戸市、清盛が天皇・貴族の勢力の強い京の都を嫌い、外国貿易の拡大を目論み港街に一時都を移したエピソードに基づく。新都の清盛屋敷の庭に忽然と現れた幾万の髑髏に動ずることなく、目も裂けるばかりにハッタと睨み付ける清盛を語る上原の歌が圧巻。

聴き終わると「祇王」は清盛の傲慢の犠牲者、「鹿谷」は平家の危機、「福原」は清盛の儚き夢−と平家の盛衰がダイジェストされて綴られている見事な構成である。

高まる"和の機運"

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「福原(ふくはら)」では西川浩平(ステージ中)は笛をフルートに持ちかえている。

この公演はCD「連琵琶 清盛」を販売した〈ビクターエンタテインメント〉と"和"の番組を企画した〈FM世田谷〉が共同キャンペーンを展開、FM世田谷で金曜日の午前に「上原まりの『平家巡礼』」がオンエアーされた。さらにライブコンサートが企画され玉川高島屋が会場を提供した−という3社のプロジェクトが成功した結果である。

"和"の文化を見直す機運は日に日に高まりつつあり、上原まり・須田誠舟・西川浩平がそのトップバッターとして揚羽蝶の如く大きく羽ばたく日はそこまで来ている気がする。

上原まり(うえはら まり)
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神戸市出身。筑前琵琶・旭会総師範・二世柴田旭堂の一人娘として、幼いころから琵琶に親しみ、高校1年のとき、東京新聞主催邦楽コンクール琵琶部門に最年少で3位入賞するなど、非凡な才能を示す。その後宝塚歌劇団に入団、大ヒット作『ベルサイユのばら』のマリー・アントワネット役などトップスターとして活躍。1981年に退団後、琵琶演奏家としてデビュー。その後『平家物語』シリーズ、『雨月物語』『西行』などすべて自身の作曲による作品を発表、ステージやTV番組などで活躍。平成15年文化庁長官表彰を授与。


須田誠舟(すだ せいしゅう)
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1947年東京生まれ。6歳のとき、伊藤長四郎に吟詠を学び、薩摩琵琶の手ほどきを受ける。1968年辻靖剛に師事し、薩摩琵琶の指導を受ける。1970年日本琵琶楽協会主催「琵琶額コンクール」で優勝、文部大臣奨励賞を受賞。日本のみならず、アジア、ヨーロッパでの公演などで活躍、また94年モノオペラ『銀杏散りやまず』(辻邦生原作)を制作、出演など。現在、日本琵琶楽協会理事長、薩摩琵琶正絃会理事長。


西川浩平(にしかわ こうへい)
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大阪フィルハーモニー交響楽団にてフルートの第一奏者として活動後、日本の横笛奏者として日本音楽集団に入団し、現在に至る。1987〜1990年、歌舞伎公演に従事、冨田勲作曲『源氏幻想交響絵巻』などを初演し、内外の交響楽団と共演する。CD『Flutist from the East』全4巻のリリース、著書に『邦楽おもしろ雑学事典』『黒御簾の内から』。昭和音楽大学、洗足学園音楽大学、桐朋学園芸術短期大学にて指導にあたっている。


笹井邦平(ささい くにへい)

1949年青森生まれ、1972年早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業。1975年劇団前進座付属俳優養成所に入所。歌舞伎俳優・市川猿之助に入門、歌舞伎座「市川猿之助奮闘公演」にて初舞台。1990年歌舞伎俳優を廃業後、歌舞伎台本作家集団『作者部屋』に参加、雑誌『邦楽の友』の編集長就任。退社後、邦楽評論活動に入り、同時に台本作家ぐるーぷ『作者邑』を創立。

【関連ページ】

イベントレポート「連琵琶(つれびわ) 清盛−『平家物語』より−」(2005/9/14)

新春公演「連琵琶(つれびわ)の華麗な競演!」(2006/1/6)

如月の宵「"語り"で聞く「平家物語」」(2006/2/10)