公演情報

第13回 亀山香能リサイタル

2005年10月21日(金)開催

平成17年度(60回記念)文化庁芸術祭参加(東京千駄ヶ谷・津田ホール)

2005年10月21日、津田ホール(東京千駄ヶ谷)にて平成17年度(60回記念)文化庁芸術祭参加 第13回亀山香能リサイタルが行なわれました。古典の原点を見つめ直し、古典の新たなる創造に向けた箏曲の演奏会の模様をレポートします。

文:笹井邦平

時を紡いで輝く箏曲

今年7月にCD「時を紡いで」を日本伝統文化振興財団よりリリースした山田流箏曲の亀山香能(かめやまこうの)のリサイタル。

「長い歴史のなかで先人達により伝統を大切に守りながら育まれてきた箏曲。過去から〜今なお息づく現在〜そしてさらに未来へと、箏曲が時を紡いでいつまでも輝きを放つものであることを願いつつ、今私の胸の中に去来するさまざまな思いをこめて精いっぱい演奏したいとぞんじます」(抜粋)と彼女はプログラムに記している。

ビバルディ「四季」の和風バージョン

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「冬の曲」
箏:亀山香能、尺八:善養寺惠介

最初のプログラムは吉沢検校(よしざわけんぎょう)作曲・松阪春栄(まつざかしゅんえい)補作「冬の曲」。和歌(短歌)を何首か組み合わせて歌う〈組歌(くみうた)〉に〈手事(てごと)〉という長い間奏を加えた〈組歌風箏曲〉といわれる曲。吉沢検校は歌詞を『古今和歌集』から採り入れて「春の曲」「夏の曲」「秋の曲」「冬の曲」と四季を網羅し、いわばビバルディの協奏曲集「四季」の和風バージョンである。

亀山の流麗な箏と善養寺惠介(ぜんようじけいすけ)の深みのある豊かな尺八の音色が見事にマッチし、典雅な世界を創造する。

初春のテーマソング

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「根曳の松(ねびきのまつ)」
箏:亀山香能、三絃:米川裕枝

2曲目は松本一翁(まつもといちおう)作詞・三橋勾当(みつはしこうとう)作曲「根曳の松(ねびきのまつ)」。題名は江戸時代正月に初めてできた子供の長寿を願って小さな松の木を根ごと引き抜く風習があり、これに因んで初春のさまざまな情景を歌っている江戸時代の初春のテーマソングともいえる。

亀山の箏と米川裕枝(よねかわひろえ)の三絃(三味線)が寿(ことほ)ぎ気分を満喫させ、響きの豊かなクラシックホールに江戸の初春情緒が溢れる。

風の中の羽のように

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「熊野(ゆや)」
箏:亀山香能、三絃:山登松和、笛:福原徹

最後の「熊野(ゆや)」は山田流の創始者・山田検校斗養一(やまだけんぎょうとよいち)作曲で『平家物語』巻十の「海道下り(かいどうくだり)」を脚色した能「熊野」の中の文句を歌詞としている。

物語は平宗盛の愛人熊野が清水寺(せいすいじ)での花見の宴で故郷に残した病気の母親を案じて「春雨の 降るは涙か 桜花 散るを惜しまぬ 人やある」と古い和歌を歌い、感じ入った宗盛が熊野の帰郷を許すというストーリー。

演奏の最初のポイントは清水寺へ行く道中の都の絢爛(けんらん)たる春景色を歌う〈道行(みちゆき)〉というフレーズ。亀山の箏と山登松和(やまとしょうわ)の三絃と福原徹(ふくはらとおる)の笛が錦絵のような都の春景色をくっきりと描き出す。

次は帰郷を許されぬまま母の身を案ずる熊野の不安と憔悴に揺れる心の襞(ひだ)を描くポイントで、心理的な描写を要求される難しい曲想である。

最後は帰郷を許された熊野の晴れ晴れとした心情。この風の中の羽のように揺れる熊野の微妙な女心の描写を亀山は女流独特の繊細な歌と手事で見事に描き出す。

先人の心を紡いで

響きの豊かなクラシックホールで今ノッテいる助演者をセレクトしてスタンダードナンバー(古典曲)に21世紀の息吹を吹き込もうとする亀山香能。彼女が紡いでいるのは江戸から平成への〈時(間)〉であるとともに古典曲を精魂籠めて守り伝えてきた先人達の〈心(根)〉でもあるのだ。

亀山香能(かめやまこうの)プロフィール
1960年 東京新聞主催、文部省・日本放送協会後援「邦楽コンクール」にて三曲児童部二位入賞。
1969年 東京芸術大学音楽学部邦楽科卒業。在学中、箏・三絃を中能島欣一に師事。桃華楽堂にて御前演奏。NHKラジオ初出演。以降NHKラジオ「邦楽のひととき」「邦楽百番」、NHKテレビ「日本の調べ」「芸能花舞台」をはじめNHK・BSにも度々出演、現在に至る。
1972年 東京芸術大学大学院修士課程卒業。この年より78年まで東京芸術大学に助手として勤務。以降非常勤講師を勤める(2001年まで隔年毎に)。
1973年 中能島欣一師より各号(香能)教授許さる。
1974年 東京ユースシンフォニーと共にスイス、イギリスを演奏旅行。
1976年 NHK依頼により、首相官邸にて演奏。
1979年 第1回リサイタルを開催(以降1997年までに10回のリサイタルを開催)、イギリス・Duraban大学東洋音楽研究所主催「東洋音楽祭」に鳥居名美野師と参加演奏。
1983年 NHKTV「箏のお稽古」にて山勢松韻師(人間国宝)のアシスタントを一年にわたり勤める。
1993年 仙台にて「中能島欣一作品の夕べ」リサイタル開始。
1998年 国際交流基金よりドイツ、イタリア、ベルギーに演奏旅行。
2000年 オーストラリアのメルボルン、キャンベラ、シドニー三都市に演奏旅行。
2001年 第11回リサイタルを開催(文化庁芸術祭参加)。
2002年 この年より年3回のペースで「亀山香能Talk&Live」を開催し現在に至る(〜10回)。
2003年 第12回リサイタルを開催(文化庁芸術祭参加)。
2004年 "中能島欣一生誕百年作品集"のタイトルにてつくば市、甲府市、仙台市、千葉市、盛岡市でライブ公演。津田ホールにて開催された「BIWAKOTOFUE」に、福原徹、中川鶴女と共に出演する。この年より年3〜4回のペースで地方ライブ公演を開始し、現在に至る。

現在、国内外の演奏及びTV、ラジオ、歌舞伎座などに出演活躍。また、後進の指導及び日本音楽普及のためのワークショップ、レクチャーコンサートなどにも力を注ぐ。

笹井邦平(ささい くにへい)

1949年青森生まれ、1972年早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業。1975年劇団前進座付属俳優養成所に入所。歌舞伎俳優・市川猿之助に入門、歌舞伎座「市川猿之助奮闘公演」にて初舞台。1990年歌舞伎俳優を廃業後、歌舞伎台本作家集団『作者部屋』に参加、雑誌『邦楽の友』の編集長就任。退社後、邦楽評論活動に入り、同時に台本作家ぐるーぷ『作者邑』を創立。